フィリピン紀行>>路上に眠り、夜を舞う
2017年 04月 27日
昼。
路上生活者は風景の一部と言っても過言ではないこの町で、港に近い
コンテナが積まれた殺風景な歩道の脇で、ひとり眠っている。
ダンボールではなく簡易ベッドだ。
全荷物と思われるショッキングピンクのデイバッグが、演劇の小道具に感じられた。
現実なのに、演劇のひとこまを見ているように思えたのは、少女の無防備さゆえ
だったのだろうか。
夜。
中央分離帯がある、6車線の大きな通り。
上半身はあちこちに穴が開き、肌が見える白いカットソー。
下半身は太ももが透けて見える薄い化繊のロングスカート。
不安定な服装で体をくねらせ、ゆっくり大きく踊っている。
足元にはセミダブルベッドほどの大きさのダンボールが敷かれ
その四辺は10cmほど立ち上がっているが、布団らしき布はない。
彼女は、なぜ人通りの多い薄暗闇で踊っているのか。
男を誘っているのか。
それとも他に目的があるのか。
商店街を歩いていて声をかけられたとき、一瞬身構えた。
1人が声をかけ、それに気を取られている間にもう1人がカバンの中の
ものを盗む手口かと思った。
ところが彼は、私がバンダナを落としたことを教えてくれたのだった。
マニラの宿をチェックアウトしたのは9時50分を過ぎていた。
宿から徒歩1分のところにあるリムジンバスのバス停で10時の出発を待っていた。
もう出発というそのとき、見覚えのある宿のスタッフが座席にいる私を見つけ
バッテリーチャージャーを大きく翳した。
「サラマートゥ サラハット(どうもありがとう)♪」
チェックアウトしてすぐに、部屋を点検してくれたのだ。
これからどんな乗り物に乗って、どこに向かうかなんて、誰にも言って
いなかったのに、急いで宿を出た様子から、10時発のリムジンバスに
乗るじゃないか?と推測してくれたのだろう。
もし彼女が機転を利かしてくれていなければ、危うくカメラは無用の
重い荷物となっていたに違いない。
ヘドロ色の海と、肺の奥まで壊れそうな排気ガス。
美しい夕陽と、星降る夜。
世界中からダイバーが集まる美しい海と、椰子の葉がたなびく長閑な村。
高層ビル群と、高級住宅街。
バラック群と、窓ガラスがない家。
穴の空いたTシャツと、市場にあふれる新鮮な食材。
連れて帰りたいほど美味しい焼き鳥と、ココナツジュース。
キティちゃんと、ノラ犬と首に鈴を付けた飼い猫。
町を往来する変顔ジプニーと、乗り合わせた人たちのくったくない表情。
フィリピンで治安の悪さを感じなかったのは、幸運だった。
何人もの親切な世話焼きさんに助けられた。
貧しいの基準は何なのだろう。
国民総所得 (GNI=Gross National Income)= 国内総生産+海外からの
所得の純取得の合計か。
貧乏な人とは、少ししか物を持っていない人ではなく、無限の欲があり、
いくらあっても満足しない人のことだ。
ホセ・ムヒカ元・世界一貧しい大統領@ウルグアイがおっしゃる、「無限の欲があって
いくらあっても満足しないことだとしたら、フィリピンで暮らす多くの人たちを
貧しいと言えるだろうか。
そんなことを考えながら、絶品の焼き鳥を頬張り最後の夜を過ごす。
全27話:完。